石油市場の暴走を食い止める日本の提案
<市場に政府が介入。「投機」を規制>
経済産業省は国際石油市場の安定にむけ、商品先物市場の規制に乗り出すと決定しました。
昨年来からNY先物市場のWTI原油相場は、史上最高値の145ドルをつけたあと一気に50ドル台までに下落するなど乱高下をみせ、世界経済は大混乱に陥った経緯があります。
経産省は、石油価格の乱高下の要因が「実需」ではなく商品先物市場で一部投資家による「投機」にあること、さらに商品市場に金融マネーが流れる仕組みにも原因があると、民間の研究に委託した研究会で分析。
市場に政府が介入し情報の透明化や市場設計の見直しを図ることで「市場の暴走」を食い止めることにしたものです。
<国際世論に喚起し、アジア・中東各国との間で合意>
こうした考えを国際世論に喚起するため、4月末には、東京で開催したアジア・エネルギー産消国閣僚会合対話会合で提案し、アジア・中東各国との間で合意を得ています。
今後は、5月下旬に開催するG8エネルギー大臣会合にて、商品先物市場の「本家本元」である英米の参加国にも理解を得ていく考えです。
しかし、ことはそう簡単ではないようです。
商品先物市場の規制を通じ石油価格の安定を図る考えは、昨年青森で開かれたG8エネルギー大臣会合でも日本が提案を行いましたが、欧米、とりわけ英米の反発を受け議論にならなかったということです。
ところが、最近のリーマンブラザーズ破綻をきっかけとする世界同時不況で、米国でも商品先物取引委員会(CFTC)に、不正取引の取り締まりや詳細な調査の権限を与えるなど商品先物市場の規制にむけた動きが始まり、世論が商品や金融市場に依存した経済体制の見直しを求める流れが出てきています。
経産省はこの波にうまく乗り、欧米の理解を得る方針です。
<NYMEXやICEの一大商品先物市場の存在>
ただ、北米や南米はNYMEX、欧州はICEという一大商品先物市場の存在があり、各地域の価格指標・ベンチマークになり石油価格を形成し、経済を動かしている現実もあります。
どこまで欧米の理解が得られるか不透明な面がないわけではないようです。
経産省はこの点について、「商品先物市場そのものを否定しているわけではない。市場に参加する投資家に正確な情報を提供し、不正確な情報で過剰な売買が行われるのを防ぐことが目的」と反論しています。
<暴走は英サッチャー政権が断行した「金融ビッグバン」から>
確かに、価格変動幅のブレが大きくなったり、価格暴騰のようにバブルが生じる行き過ぎた投機的な売買を防ぐ手立てには違いないようです。
石油価格の暴走が起こる背景には商品市場と金融市場の融合があり、さらに金融市場については徹底的な規制緩和により流動性を高めた点にあります。
その原点は、1986年10月に英サッチャー政権が断行した「金融ビッグバン」です。
証券売買手数料の自由化、株式取引税の引き下げ、会員証券会社の完全開放などを実施し、金融市場での流動化を高めました。
米国でも、90年代以降、経済再生をねらい規制緩和による金融業の活性化が進められたのです。
30年代の大恐慌の反省に立ち、取り組んだ金融規制(商業銀行と投資銀行を峻別、借金依存(レバレッジ)の抑制、金融機関の情報公開、利害の抵触の回避など)はこれにより全て取り除かれたことになります。
さらに、インターネットや金融工学の発達がこのような動きを加速させました。
その背景には、レーガン・サッチャーの米英政権が財政赤字を回避するため行った一連の民営化や規制緩和など「小さな政府」・新自由主義思想がありました。
<世界の商品・金融市場の規制緩和は行き過ぎ>
行き過ぎた金融緩和による石油市場混乱で影響を受けたのは、中東・アジアの産油国である点も見逃せません。
日本は資源小国であり、石油資源を有する中東産油国やアジアとの通商関係を維持することにしか、自国のエネルギー安全保障を保つ手立てがないことをふまえるべきでしょう。
一方で、商品先物市場の規制が行き過ぎれば流動性が欠如し、世界経済の回復にも影響を与えかねないのも事実です。
しかし、これまで世界の商品・金融市場の規制緩和は明らかにやりすぎであり、これを正常な姿に戻すことに注力するのは当然です。
今後の動きが注目されるところでしょう。
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